あるお掃除屋のつぶやき

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ザウルスがサポート終了。電子手帳はなぜ廃れた?その3

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シャープの人気電子手帳:ザウルスシリーズのサポート終了の報道から、なぜ電子手帳が廃れたのかについて考えてみた今回のシリーズも3回目となります。前々回・前回の記事の続きとなりますので、まずは前々回の記事からご覧ください。

前々回の記事 www.c01.jp

前回の記事 www.c01.jp

さて、前回の記事では、

電子手帳の成功例としてiPod touchと それを支えたiTunesを軸とするビジネスモデル

のお話をしました。

iPod touchを電子手帳のカテゴリーに入れるのは無理がないか?というご指摘がありそうですね。でも、シャープのザウルスもソニーのクリエも、iPod touchでできる基本機能は、ほぼ全て使えるまでの機能がありました。

でも、両社の両機種ともに結局、ある一定層の熱烈なファン層がいたのに対して、多くの一般層には受けることなく、廃れてしまいました。生産終了に加え、修理部品もなくなり、サポート窓口まで止める。今回は、なぜこういった事態になったのかという直接的な原因と、僕の考えをお話しさせていただきます。

キーワードは「キャズム」です。

キャズムを越えられなかった電子手帳

シャープのザウルスも、ソニーのクリエも、意欲的でIT関係に強いビジネスマンは積極的に活用されていました。かくいう僕も、ビジネスで必須ではないもの、クリエの購入に至り、実際に使っていました。

使用していたビジネスマンにとって、ザウルスもクリエも、これがないと仕事にならないというレベルではなかったですが、使用したものの意見としては、「あれば重宝する便利アイテム」という位置づけでした。でも、多くの一般消費者に支持されず、マニアックな製品として幕を閉じることになりました。

これも、電子手帳というジャンルが、キャズムを越えられなかったからでしょう。

先ほどからお話ししているキャズムの解説とともに、電子手帳が廃れたかを考えてみます。

キャズム理論とは

キャズム理論は、ジェフリー・ムーアという方が書いたビジネス書「キャズム」で出てくる理論で、アメリカを中心にMBAでも取り上げられている理論です。

簡単に説明すると、「ハイテク商品を販売するときに、【新しもの好きのハイテク好き】と【みんなが買うなら買う普通の人】との間に大きなミゾ(これがキャズム)があって、それをどうやって越えるか。越えた後にライバルをいかに越えさせないか」を論じた理論です。

もう少し細かくいうとまだまだ説明できますが、ここでは、このキャズム(ミゾ)を越えないと商品は大量に長く安定して売れないですよ~とだけ覚えてくださいね。

◆キャズム理論における5つの購買層と僕の分類分け

【新しもの好きのハイテク好き】 ・イノベーター (innovators) ・アーリー・アドプター (early adopters)

<この間がキャズム>

【みんなが買うなら買う普通の人】 ・アーリー・マジョリティー (early majority) ・レート・マジョリティー (late majority)

<埋めれないキャズム>

【絶対買わない信念の人】 ・ラガード (laggards)

僕は、ザウルスやクリエはこのキャズムを越えることができず、iPod touch(iPhone)は越えることができたと考えています。

キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論

ちなみに、僕がこの本を読んだのは10年近く前の話(2002年日本発売で読んだのは2006年頃)で、この「キャズムver2」は読んでいません。この記事を書くときにアマゾンで見つけました。2014年10月に発売されたようで、僕も注文しました。よかったらチェックしてみてください(^^♪

電子手帳の終焉はiモード

ザウルスやクリエのような電子手帳を撤退させたのは、携帯が普及し、ドコモのiモードが全盛になったからです。

ドコモのiモードをはじめとする従来型の携帯電話は、今でこそガラパゴス携帯(ガラケー)などと揶揄されていますが、iモードの出てきた当時はものすごく画期的でした。それこそ、これまでの世の中を変えるほどです。

ポケベルからPHSへと移り、ガラケーへと移行する段階で、普及率が上昇。電子手帳の撤退時期の2005年前後で、携帯の普及率が70%を越えてきました。(総務省:移動体通信(携帯電話・PHS)の年度別人口普及率と契約数の推移

モデル地区である東海地区の全人口比率ではありますが、当時小中学生の携帯電話の普及率はそんなに高くなかったことから、電子手帳がターゲットとするビジネス層での携帯電話のシェアは、かなり大きくなった(ほぼ100%?)と推測できます。

このシェアが電子手帳を苦しくしていくのです。

ビジネスでほしい機能は携帯できるようになった

世の中を激変させたiモードのビジネスモデルの肝は、iモードでモノが売れるようにしたことです。

当時はゲームや着メロやニュース配信が売れるモノでしたね。若い女性を中心に物販系も売れました。iモードで商売をしようとする人も、代金収納もドコモの電話代と共に代行してくれるので楽ちんです。そのため、ドコモと関係ない会社が、iモードで今でいうアプリを勝手に開発してくれます。

また、携帯の機種自体にも様々な機能を備えるようになりました。

カタチも多種多様なものが出ましたし、機能もどんどん新しいアイデアが追加されました。複雑化した機能をあえて減らしてシンプルにしたらくらくフォンのような機種も出ました。

そもそも、ビジネスで多くの人に必要な要素は、スケジュール管理・メール送受信・web閲覧くらいのもの。それがすでに持っている携帯電話でできるのですから、専用機器として使い勝手が良くても電子手帳を購入する人が減ってしまうのは仕方がないことなのでしょう。

それでも電子手帳特有の機能(ビジネス文書作成や長文でのメール送信)を使いたいデジタル志向のビジネスマンは、ブラックベリーなどが販売していたスマートフォンやポケットPC、にとって代わられることになりました。ちなみに僕はクリエが生産終了になってからはシャープのW-ZERO3シリーズを使ってました。

このように、携帯電話にその役割を奪われた電子手帳は、今のままでは存続が難しいとの経営判断があったのでしょう。携帯電話の普及とともに廃れていきます。

ザウルスやクリエになくてiPod touchにあったもの

ようやく結論です(笑)

これまで、電子手帳が衰退した経緯をお話してきました。しかし、その役割の代替機としてのガラケーと旧スマートフォンやポケットPCは、【新しもの好きのハイテク好き】と【みんなが買うなら買う普通の人】で層が分かれていました。

電子手帳の真の後継機は、両方の層を取り込んだ、iPhoneやアンドロイド携帯をはじめとする今のスマホです。

なぜ、今のスマホは、旧スマートフォンやポケットPCで越えられなかったキャズムを越えることができたのか。

それは、前回の記事でも述べましたが、

iPod → iPod touch → iPhone  この流れを支える「iTunes」

この製品リリースの流れとiTunesというプラットフォームのなせるワザだと考えています。

顧客ターゲットの違い

電子手帳や旧スマートフォン・ポケットPCは、【新しもの好きのハイテク好き】かつ【ビジネスマン】という顧客ターゲットをあまりにも深く追求しすぎて、ニッチな市場になってしまっていました。

しかし、iPod touchは、確かに【新しもの好きのハイテク好き】が対象の商品カテゴリーに属しますが、【ビジネスマン】がターゲットではなく、すでにiPodで獲得していた、音楽の好きな【みんなが買うなら買う普通の人】が顧客ターゲットでした。

◆顧客ターゲットのイメージ

・電子手帳や旧スマートフォン・ポケットPC 【新しもの好きのハイテク好き】なビジネスマン

・iPod touch iPodで獲得した音楽好きの【みんなが買うなら買う普通の人】

もう一度言います。

初期のiPod touchと、ザウルスやクリエでできることにそこまでの違いはありません。

ただ、最初の顧客ターゲット層がすでにiPodで獲得している【みんなが買うなら買う普通の人】だったのか、【新しもの好きのハイテク好き】なビジネスマンだったのかの違いです。

ハイテクITガジェットではなくても同じですが、ビジネスマンをターゲットにした場合、どうしても【成果】が重要視されます。電子手帳の場合、よっぽどその企業に特化した仕組みづくりを行わない限り、個人の補助ツールでしかありません。

ところが、iPod touchは、別に成果を上げる必要のない「iPodで獲得した音楽好きの【みんなが買うなら買う普通の人】」で、しかも法人ではなく個人が顧客ターゲットです。男女問わず、多くの人数をすでに獲得しているうえに、パソコンとの連携はiTunesで経験済み。とてもスムーズにキャズムを越えることに成功しました。

この顧客ターゲットの差や、製品リリースのタイミングによる顧客の教育や第3者が参加しやすいプラットフォームの有無の差が、圧倒的な製品クオリティの差がない状況で、多くの消費者を魅了し、そのついでに仕事でも遊びでも使えるITガジェットとしてiPhoneが誕生し、その後のスマホ製品が、ビジネスマンを含む【みんなが買うなら買う普通の人】を獲得したという具合です。

電子手帳の撤退を教訓に売り方を考える

電子手帳の撤退は、小さくても独自の市場(ニッチ)を狙う戦略を、シャープやソニーといった大企業がとってしまったところに失敗の種があったと思います。製品自体の機能やスペックを上げるハード面よりも、ビジネスの場面で使わざるを得なくするための仕組みづくりや、一般の人も使えるような娯楽性を高めるなどのソフト面に問題があったのではと思います。

日本のモノづくりは、クオリティが高いです。けれど、「良いものは売れる」「買うかどうかはお客さんが決めること」という感覚で製品を造ってしまうきらいがあります。このあたりは日本人の気質(職人気質)かも知れませんね。

モノ余りの時代。また、言葉や文化の違う人にも売らなければならないグローバルな時代。これからは、売り方にもしっかりとビジョンや戦略を持たせた考え方が必要だと感じました。お掃除屋もそうですね。。。

以上、かなり長くなりましたが、本シリーズは終わりです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。