あるお掃除屋のつぶやき

四国のお掃除屋を営む経営者が日々の気になるニュースやお役立ち情報などをつぶやきます。

イソップ寓話の「北風と太陽」の話で本当に学ぶべき教訓。ウィキペディアで消された帽子の話

f:id:sim-naoki:20190718215238j:plain

イソップ寓話に「北風と太陽」というお話があります。

僕は「北風と太陽」の話を強引に物事を進めるよりも相手に合わせて着実に物事を進めた方が良い的な、そんな教訓が込められたお話だと思っていました。

それは、「旅人のマントを脱がせる勝負」で北風の強引な方法よりも、太陽の押してダメなら引いてみな的な方法で勝利したからです。

ところが、ウィキペディア(Wikipedia)の「北風と太陽」の項目に「旅人の帽子を脱がせる勝負」があらすじに掲載されていた時期があったのです。

しかも、その勝負では北風が勝利しています。

北風と太陽が1勝1敗になったことで、「北風と太陽」の教訓は「状況によって最良の結果を生む手段は変わる」という旨のことが書かれていました。

てなわけで本当は今回の僕のブログ、「旅人の帽子を脱がせる勝負で太陽は北風に1度負けてるんですよ」という内容にしようと思っていました。でも、調べていくうちにとんでもない事実が浮かび上がってきたので、本当に学ぶべき教訓としてお伝えしたいと思います。 

北風と太陽のあらすじ

ウィキペディアの「北風と太陽」のあらすじから見てみましょう。

ちなみに、イソップ寓話の「北風と太陽」の話は、もともと「太陽神アポロンと北風の神ボレアスの話」だったそうです。イソップが古代ギリシア人であったことからギリシア神話のアポロンとボレアスが出てくるのは納得です。

おそらく、世界的にイソップ寓話が流行したとき、外国の神様よりも親しみやすい「アポロン=太陽」「ボレアス=北風」に変更したんでしょうね。

閑話休題

では、現時点(2019/07/18)でのウィキペディアに掲載されているあらすじを引用します。(現時点での最新版は2018年11月16日 (金) 11:15時点)

旅人のマントを脱がせる勝負

あるとき、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。

  1. まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。
  2. 次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。

これで、勝負は太陽の勝ちとなった。

引用元:北風と太陽|ウィキペディア 2018年11月16日 (金) 11:15時点における版

改めてみると、何の罪もない旅人に対して勝手に勝負の対象にして、強風を浴びせたり、暑さに耐えきれないほど燦燦と照りつけたり。いやぁ~これ、北風だけじゃなく太陽もまぁまぁひどいことしてますね。

まぁ、それはさておき。

問題は、帽子の勝負です。

消されたあらすじ

現在は削除されている「旅人の帽子を脱がせる勝負」。 

僕がそのウィキペディアの項目を読んだのが2014年頃だったのですが、当時、「なるほど!これは話のネタになる」と感心したものです。実際、いくつかのブログなどで「北風と太陽の本当の話」として「旅人の帽子を脱がせる勝負」について書かれていました。

が、今では「旅人の帽子を脱がせる勝負」は、ウィキペディアの「北風と太陽」のあらすじから削除されています。

でも、ウィキペディアは過去の編集履歴を全て残していますので、僕が見た「旅人の帽子を脱がせる勝負」を復元してみたいと思います。 

復刻版?旅人の帽子を脱がせる勝負

あるとき、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。

  1. まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。
  2. 次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。

これで、勝負は太陽の勝ちとなった。

これには、また別の話もある。 北風と太陽がした勝負は最初は旅人の帽子をとることだった。 最初、太陽は燦燦と旅人を照り付けると、旅人はあまりにもの日差しで帽子をしっかりかぶり、決して脱がなかった。 次に北風が力いっぱい吹くと、みごと簡単に帽子は吹き飛んでしまった。 その次に行った勝負は旅人の上着を脱がす勝負だった。 この勝負の結果は周知の如くである。

この別の話の教訓は、何事にも適切な手段が必要である、ということである。一方でうまくいったからといって、他方でもうまくいくとは限らない。その逆も然り。 しっかり、結果を見据えて、手段を選ぶべきである。

引用元:北風と太陽|ウィキペディア 2008年4月19日 (土) 14:50時点における版

前半は同じですが、「これには、また別の話もある。」から始まるあらすじに帽子の話が入っています。教訓も新たに加わっています。僕や帽子の勝負のネタを書いている人はこの項目を読んだんですね。

なお、2008年4月19日 (土) 14:50時点という日付が、この項目が初めて追加された日にちのようです。 

なぜ帽子の勝負の話は消されたのか

結論から言うと、「帽子の勝負の話」に関する根拠(エビデンス)がなかったからです。

ブログ記事を書くにあたって、ウィキペディアに帽子の勝負の話がない。ってことで、僕も3時間くらいネット上を探しました。ウィキソース(wikisource)のギリシャ版や英語版も確認しましたが、載っていないんですね。

だから、誰が何の理由でどの出典を元に「帽子の勝負」をウィキペディアに追加したか分からないんです。

出典や根拠が分からないものを百科事典に載せるのは不適切。ということで、ウィキペディアから削除されたわけですね。

削除された経緯

北風と太陽の「帽子の勝負の話」は、ウィキペディアに載っていたということで知っている人は知っているネタでした。でも、「帽子の勝負の話」が本当にあったのかという裏付けや根拠になるものがない。

これを不審に思った方が、レファレンス協同データベース(国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している、調べ物のためのデータベース)で北風と太陽の「帽子の勝負」についての出典元を質問しました。

一般的に知られている、「北風と太陽が旅人のマントを脱がせるために争い、太陽が勝った」というあらすじで... | レファレンス協同データベース

その結果、国立国会図書館等が管理している国内で出版された42の「北風と太陽」に関する出版物の中でひとつも「帽子の勝負の話」は出てこなかったようです。*1

あ、ギリシャ版と英語版のウィキソースのURLも載せておきます。

Αισώπου Μύθοι - Βικιθήκη(イソップ神話|ウィキソースギリシャ版)

Fables (Aesop) - Wikisource, the free online library(イソップ寓話|ウィキソース英語版)

どちらも原典ではありませんが、北風と太陽の「帽子の勝負の話」は出てきません。

ということで、レファレンス協同データベースでの質問の結果を受けて、2017年12月15日に北風と太陽の「帽子の勝負の話」を全削除したようです。

参考:北風と太陽|ウィキペディア 2017年12月15日 (金) 15:15時点における版

そもそもイソップ寓話はイソップがまとめていない

なぜ、こんなにもはっきりしないのか。それは、イソップ本人が文字情報としてまとめていないからだと思います。

イソップは今から約2,600年ほど前の人で、古代ギリシャの奴隷身分だったようです。(架空の人物だという説もあるようですが、一応、実在はしたもよう)

2,600年も前の、しかも奴隷身分であったイソップが、教訓のためとはいえ、文字で物語を残しているわけではないのでしょう。イソップ寓話は、イソップ本人の創作のものをベースに、時代によって様々な寓話が盛り込まれたり改編されたりしたようです。

ひょっとしたら、北風と太陽の「帽子の勝負の話」も、とある時代のイソップ寓話の中にはあったのかもしれません。ただ、それを裏付ける史料がなかったら「あった」と断定できないですよね。

そんなあやふやさが、「帽子の勝負の話」削除に繋がったのだと思います。

まとめ:本当に学ぶべき教訓

今回、このブログ用に記事を書こうと思うまで、僕は「北風と太陽」の話は帽子の勝負が行われ、教訓も別にあるのだと思っていました。仮に帽子の勝負が後付けのストーリーだとしても、非常に含蓄のある話に思えたからです。

実際、イソップ寓話も、原著からかなり改変されています

なので、「帽子の勝負の話」があったのか無かったのか自体は特に問題は無いと思います。

問題は、メディアの情報は正確ではない可能性があるということです。

最近ではフェイクニュースなどの言葉が一般的になり、同じモノを伝えようとしても、インターネットの記事やSNS、テレビ・新聞・ラジオの情報は、発信者側の主義主張によって表現方法が変わったり、明らかな間違いを発信していたりする事実が知られるようになりました。

特にネットは、自分から情報を求めて検索するという特性上、事実と反する内容も「自分が調べた情報」ということで誤った情報を信じてしまうことがよくあります。

もし、何かのニュースやSNS等で流れてきた情報が明らかに誤った情報だとして、その情報から取り返しのつかない行動を起こしてしまう可能性があるわけです。

というわけで、今回の「北風と太陽」ウィキペディア問題から僕たちが得る教訓は、メディアを妄信してはダメ。情報は、出典や根拠を確認し、自分の頭で考え処理しようということでした。

うん、もっとライトな記事のつもりが予想外に重たいまとめになってしまいました(^_^;)

まぁ参考程度にしてくださいね。

*1:1.イソップ [著] ; 中務哲郎 訳. イソップ寓話集. 岩波書店, 2002.6【KP31-G33】
 (ペリー版校訂本のうちギリシャ語部の完訳)
2.中務哲郎 著. イソップ寓話の世界. 筑摩書房, 1996.3【KP25-G2】
3.小堀桂一郎 著. イソップ寓話 : その伝承と変容. 中央公論社, 1978.11【KP25-9】
4.イソップ [著] ; 川名澄 訳. 新編イソップ寓話 = Aesop’s Fables. 風媒社, 2014.4【KP31-L11】
5.稲田浩二 [ほか]編. 世界昔話ハンドブック. 三省堂, 2004.4【KE112-H14】
6.山本光雄 訳. イソップ寓話集. 岩波書店, 1983.9【KP31-43】
(シャンブリ版校訂本の完訳)
7.イソップ [原作] ; 河野與一 編訳. イソップのお話. 岩波書店, 1955.7【Y7-N03-H109】
 (ハルム版およびシャンブリ版から300話を訳出)
8.パエドルス, バブリオス 著 ; 岩谷智, 西村賀子 訳. イソップ風寓話集. 国文社, 1998.1【KP31-G14】
9.市原豊太 訳. ラ・フォンテーヌ寓話. 白水社, 1959【951-cL16l-I(s)】
10.クルイロフ [著] ; 内海周平 訳. クルイロフ寓話集 : 完訳. 岩波書店, 1993.9【KP232-E6】
11.もう一つのイソップ物語. 杉並区立中央図書館, 2008.3【Y8-N08-J1050】
12.ジョン・シェスカ 文 ; レイン・スミス 絵 ; 青山南 訳. イカはいかようにしてもイカだ : イソップが生きていたら話していたにちがいない、いやらしいたとえ話(みずみずしい教訓つき) . ほるぷ出版, 1999.10【Y9-M99-204】
13.レオン・バッティスタ・アルベルティ 作 ; ブルーノ・ナルディーニ 編 ; アドリアーナ・S.マッツァ 絵 ; 渡辺和雄 訳 ; 筒井敬介 文. 新イソップ寓話集 : アルベルティの寓話. 小学館, 1980.12【Y7-8623】
14.岡本文良 作 ; 古賀亜十夫 絵. なるほどねイソップさん : どれい男の知恵と一生. PHP研究所, 1980.7【Y7-8194】
15.G.ド・ラ・グランディエール 原作 ; リュドオ・アントネスキュ 絵 ; 榊原晃三 訳 ; 土家由岐雄 文. 新イソップ物語. 小学館, 昭和46【Y7-554-[41]】
16.ジェームズ・サーバー 作 ; 今江祥智 訳 ; 宇野亜喜良, 長新太 画. たくさんのお月さま. 学習研究社, 1965.11【Y9-N03-H301】
17.少年小説大系. 別巻1. 三一書房, 1988.3【KH6-358】
18.ジェイムズ・サーバー 著 ; 福田恒存 訳. 現代イソップ : 名詩に描く. 再版. 万有社, 1951【933-cT53g-H(2)】
19.串田孫一 著 ; 斎藤博之 絵. 新イソップ. 小峰書店, 昭和26【児913.8-Ku946s】
20.伊藤神章 新イソップ物語 1. 文徳社, 1948.5.10【VZ3-10056】
21.伊藤神章 新イソップ物語 2. 文徳社, 1948.7.10【VZ3-10056】
22.山岸外史 新イソップ物語. 主婦之友社, 1947.9.30【VZ3-30631】
23.三石巌 科学イソップ : 児童文化選書. 星書房, 1947.8.25【VZ3-30036】
24.楠山正雄 編 ; 佐藤義郎 絵. 新修イソップ物語.1. 日本書院, 昭和22【児乙部47-K-8】
25.佐藤長生 新イソップえほん : ふたばのえほん. 二葉書店, 1947.11.30【VZ3-10056】
26.武井武雄 新イソップ : Vanノエホン. 株式会社イヴニングスター社, 1946.11.1【VZ3-10056】
27.巌谷小波 著 ; 黒沢武之輔 絵. 日本イソップ物語. 学芸社, 昭和14【児970-9】
28.横田桃水 著. 桃水イソップ : ラジオ童話. 1. 博進堂, 大正15【児乙部26-Y-14】
29.横田桃水 著. 桃水イソップ : ラジオ童話. 2. 博進堂, 大正15【児乙部26-Y-15】
30.稲葉翠浪 (隣作) 編. 新式イソップものがたり. 稲葉隣作, 明44.4【特30-482】
31.横井貞憲 著. 聖典イソップ物語. 天真閣, 大正13【児乙部24-Y-9】
32.NHK Eテレ「にほんごであそぼ」制作班 編 ; うなりやベベン 語り. うなりやベベン ベベンの紙芝居. 金の星社, 2015.9【Y8-N15-L678】
33.松田哲夫 編. 中学生までに読んでおきたい哲学. 3 (うその楽しみ). あすなろ書房, 2012.10【Y5-N12-J345】
34.ザ・たっち 作 ; リタ・ジェイ 絵. ザ・たっちの日本すかし話 : あの昔話のキャラクターが双子だったら : 世界のパロディえほんシリーズ? . 小学館, 2008.1【Y17-N08-J254】
35.吉川豊 作・画. ドキドキ!イソップ物語. 理論社, 2006.7【Y16-N06-H158】
36.舟崎克彦 作 ; 井上洋介 絵. 宇曽保物語 : 動物寓話集. 風濤社, 2004.7【Y8-N04-H759】
37.植木不等式 著. こころが疲れたら読む世紀末おとぎ話: トンデモ童話20選. 大和書房, 1997.10【KH648-G18】
38.ビートたけし 著. ビートたけしのウソップ物語. 瑞雲舎, 2001.7【KH77-G221】
39.堀関夫 著. ウソップ物語 : 寓話. 文化書房博文社, 1973【KH152-15】
40.堀関夫 著. ウソップ物語 : 寓話. 2集. 文化書房博文社, 1974【KH152-15】
41.ひろさちや 著. 昔話にはウラがある. 新潮社, 2000.6【KH145-G577】
42.星新一 著. 未来いそっぷ. 新潮社, 1971【KH152-34】
  「北風と太陽」(pp.10-11)