今回は、シャープの人気電子手帳:ザウルスシリーズのサポート終了の報道から、なぜ電子手帳が廃れたのかについて考えてみます。前回の記事の続きとなりますので、まずは前回の記事からご覧ください。
前回の記事 www.c01.jp
さて、前回の記事では、
- 自分が電子手帳をどのように使っていたのか
- 電子手帳の機能は実は現在も求められている
の2点をお話ししました。
今回は、電子手帳がなぜ廃れたかをお話しする前に、電子手帳として大成功した例を挙げてみようと思います。
電子手帳の唯一の成功例「iPod touch」
冒頭の画像を見て「電子手帳の記事でなぜiPod touchなんだろう」と疑問に思った方もいるかも知れませんし、これだけですべてを悟った方もいらっしゃるでしょう。
僕は、電子手帳の唯一の成功例は「iPod touch」であると考えています。
iPod → iPod touch → iPhone この流れを支える「iTunes」
アップルのスティーブ・ジョブズがつくったこの流れは芸術的だといっていいでしょう。本当に素晴らしいです。
マニアックなパソコンメーカーだったアップルを、世界的に知らない人はいないというほどメジャーな企業に押し上げたのは、iPodから始まる販売戦略のおかげであるといえます。
すごいのはiTunesというプラットフォーム
iPodが爆発的に売れたのは、音楽の携帯プレーヤーとしてではありません。その小ささでもありません。音質でもありません。シンプルなデザインと使いやすいUIは魅力的ですがそれ以上に重要なのは「音楽がiTunesというプラットフォームから買える」というビジネスの仕組みを作ったからです。
正直、音楽の携帯プレーヤーとしての機能面だけ見ると、ソニーがiPodに対抗して出してきたウォークマンシリーズの方が圧倒していると思います。事実、現在のシェアはソニーのウォークマンの方が大きく、iPodは2位の座に退いています。しかし、販売当初はiPodの圧勝でした。
じゃあなぜ発売当初、iPodからウォークマンにスイッチしなかったかというと、すでにユーザーのパソコンにはiTunesがインストールされていて、すでに音楽を有料でダウンロードしているからです。ソニーがMedia GoというiTunesのようなプラットフォームを作ったのは後になってからでした。。それまではiPodの圧勝です。
iPodやiPhoneとの連携が一番いいからということで、高性能だけどマニアックなパソコンだったマッキントッシュまで売れるようになりました。そのうち、iPodがネットにつながるようになると直接音楽が購入できるようになり、パソコンすらいらなくなりました。
こうして、携帯音楽プレイヤーという分野に特化してシェアを伸ばし始めました。
そして登場したのが「iPod touch」です。
iPod touchは買わない方がいいよ
実は僕、このiPod touchが発売された時期、東京で社長の知り合いの方のベンチャー企業で働いていました。有楽町のビッグカメラに、用事もないのに毎週のように通うほどのITガジェット好きの僕ですから、当然、発売すらされていないiPod touchも欲しくなります。
そのとき、アップル社のUIのテストをしてた方とある案件で一緒に仕事をしていたので、iPod touchのことを聞いてみました。すると予想外の答えが返ってきました。
「iPod touchは買わない方がいいよ。どうしても欲しいなら止めないけど、だったら8Gの安いタイプにした方がいい」
もちろん理由を聞きましたが、どうして買わない方がいいのか理由は教えてくれませんでした。まぁ忠告を無視して買っちゃうんですけどね。クリエの販売が終了してからというもの、パソコンとのスケジュールの連携のツールを探してたんですよ。ようやくこれだ!っていうのがiPod touchだったんです。
でも一応、言うこと聞いて8Gのタイプにしました。
今思えばiPhoneの販売戦略が内部的に発表されていたからなのでしょう。海外で1年もたたないうちにiPhone発売が発表されました。
iPod touchはiPhoneへの布石
iPhone発売以前からスマートフォンはありました。
けれど、ザウルスやクリエなどの電子手帳のように、どちらかといえば海外を中心としたコアなビジネスマンやIT好きのマニアックな層にしか売れていなかったのが実情です。
なので、iPhoneの発売が発表されたとき、スマートフォンが日本でも受けるのかなぁって思いましたが、iPhoneのイメージ画像を見た瞬間、なるほど!って思いました。
ほぼ、iPod touchなのです。
ボタンの追加、角の丸みやサイズの変更、カメラが付いたりなどの小さなリニュアールもしましたが、第1世代の発売以降、iPhoneもiPod touchもほとんどデザインが変わっていません。また、この後に販売されるiPadもほとんど同じデザイン。
使う側にしても親しみやすいです。
つまり、iPod touchは単体でヒットし収益を上げることよりも、ユーザーにiPhoneを受け入れてもらうための布石だったと考えられます。
しかも、iPod touchもiPhoneも、音楽やアプリなどのコンテンツは、すでにシェアを占めているiTunesからダウンロードできる。。。iPodも含めて、iPhoneを売り出す布石だったとも考えられます。
だから携帯音楽プレイヤーのシェアをウォークマンに奪われても、大きなテコ入れもなく、平然としていられるのでしょう。アップルからすれば、パソコンも含めて、どれが売れてもいい状態なんでしょうね。素晴らしい販売戦略だと思います。
ユーザーを教育するリリースタイミング
よく、商品の機能やコンセプトは素晴らしいが、時代を先取りしすぎて失敗する例があります。
電子手帳がまさにそれです。
現在、スマートフォンでほぼ代用できる機能が、昔の電子手帳でもできました。スペックは違っても、ある程度同じようなことはできました。
ただそれも、徐々にユーザーが教育されたからこそできるのでしょう。また、携帯電話のように常時ネットに接続でき、パソコンに特別なソフトがなくてもGoogleがメールやカレンダーや写真保存など多くのソフトを無料で提供してますし、アプリも充実しています。
その点でもアップルは優れています。
iPod →音楽を通じてパソコンと連携する習慣
iPod touch →音楽だけではなく様々な機能を使う経験
iPhone →iPodtouchと同じUIで電話機能とネット常時接続の経験
もちろんこれだけではありませんが、技術的にリリースできても、あえて遅らせて販売することで徐々に体験してもらうこと、デザインとUIをほぼ同じにして安心感を持ってもらうことが重要ですね。
こうして徐々にユーザーを教育することで、様々な機能を無理なく使ってもらうことができます。使い始めると便利なので手放せなくなります。
このあたりが電子手帳の廃れた理由であると考えています。
次回はいよいよ、電子手帳の廃れた理由の本題に入っていきます。