外国人技能実習制度をご存じでしょうか。
生産年齢人口(日本では15歳~65歳の人口)の減少による人手不足。全産業的な人手不足を解消するために、外国人の受け入れついて国会でも議論されています。
外国籍のまま長期間日本に滞在するとなると、様々なケースを想定して慎重に法整備を進めなくてはいけません。それにはとても時間がかかります。
でも、現場は人がいなくてめっちゃ困ってる。難しいことは置いといて、すぐにでも多くの外国人に来てもらい、その手を借りたい。。。なぁ~んてふうに、どこの会社も思うわけです。
そこで苦肉の策として活用するのが、外国人技能実習制度なんです。
この外国人技能実習制度を活用すると、基本的に3年(最大5年)の期間、外国人が日本で実習生として給料をもらいながら働くことが出来るのです。が、3年しか日本にいない技能実習生が、厚生年金を含む社会保険を払うことに違和感があって、この記事を書きました。
お掃除業界は未曾有の人材不足
そもそも僕が外国人技能実習制度に関わったきっかけは、お掃除業界もご多分に漏れず、未曾有の人材不足だからです。特にホテルのベッドメイクが壊滅的な状況なんですね。おそらく、お掃除屋にとって全国共通の悩みだと思います。
なのに、インバウンド、国内旅行などの観光客が激増。僕の商圏内でも新築ホテルがガンガン建ちました。ここ3年で4つのホテルがオープン。そして今年は、さらに2つのホテルが新規オープンを予定しています。
ホテルが増えても客室の稼働率は順調。
でも、働く人がいない・・・・・・
既存のホテルで手一杯なのに、これ以上ホテルが出来るとただでさえ少ないパートさんの奪い合いが起こり、人手不足が加速します。
うん、これはヤバい。
お掃除(ビルクリーニング)業の職種にベッドメイク作業が加わる
これまででも数社から外国人技能実習制度の活用のご提案がありました。でも、当時は実習生がベッドメイク作業を行うことが不可だったので、ウチは制度導入に積極的になれずにいたんです。
そんな中、今年4月施行の法改正により、ビルクリーニングの職種にベッドメイク作業が加わったのです。
これは波が来ているのか!?
ということで、いよいよウチも外国人技能実習生の受け入れを本格的に考えなきゃと思い、本日、2社の外国人技能実習生を仲介する事業者とお話をしたんです。
受入に関する説明を受けるなかで、1つ腑に落ちない点が・・・・・・
なぜ3年で帰る外国人技能実習生に年金を払うのか?
腑に落ちない点。それは、1人の実習生を受け入れるにあたってどのくらい費用がかかるかの資料を見たときでした。ウチの規模と同程度の会社の実例があって3年目までの費用を算出してくれていたんですね。
その費用の明細に、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、労災保険料の項目を見つけたことです。
なんで実習生が厚生年金を払わないかんの?
ご存じの通り、厚生年金は、20歳以上60歳未満のサラリーマンや公務員が入る年金制度です。収入に応じて算出される厚生年金保険料を40年間払い続けてようやく65歳から満額の給付を受けます。
3年ほどで帰国することが前提の技能実習生が、厚生年金に加入する意味があるのかはなはだ疑問です。
まぁ一応、
- 厚生年金保険料を6ヶ月以上納付している
- 日本に住所を有していない
- 日本から出国して2年以内
などの条件を満たせば、脱退一時金なるものを請求可能です。
でも、払った金額の満額が返ってこない上に、実習生個人にのみに給付(労使折半なので半額会社負担ですが、会社が支払った保険料は返ってこない)。おまけに請求手続きが複雑で、振込も海外口座には行わないなど、非常に不親切にみえます。
これっておかしくないですか!?
衆議院でも質問が出てた
やっぱりおかしいと思った議員さんもいたようで、平成14年2月21日提出
質問第30号で、第154回国会にて下のような質問が出ていました。
もう17年も前の話なんですね。
ちなみに、質問者は当時民主党の衆議院議員だった山田敏雅氏です。
外国人技能実習生にかかる厚生年金保険制度に関する質問主意書
我が国の厚生年金制度では、外国人技能実習生は外国人労働者として加入を義務付けられているが、問題点があり、改正が必要と考えられる。よって以下のとおり政府としての見解を質問する。
一 外国人技能実習制度により入国した外国人研修生は、一定の研修の後二年の技能実習生(在留資格特定活動)に移行し、最大三年間の滞在が許可され(出入国管理及び難民認定法第二条の二)、その後母国に帰りそれぞれの国の経済発展に寄与している。
その間、我が国の「厚生年金保険」加入が義務付けられており、規定の保険料を払い、帰国時には一時金を受け取っている。
(例) 技能実習生 月額手当 一六〇、〇〇〇円の場合
●一ヶ月 厚生年金保険料 二七、七六〇円(個人一三、八八〇円+事業主一三、八八〇円)
●帰国まで(二四ヶ月)の厚生年金保険料 六六六、二四〇円(二七、七六〇×二四)
●脱退(帰国時)一時金 三二〇、〇〇〇円(月額手当の二倍)
個人にのみ給付
この例からも明らかになるように、短期残留である外国人実習生については、脱退一時金が支払われるとは言え、その返金が不十分かつ、事業主においては、上記制度は、直接に年金とは結びつかず、不当に思われる。
以上の理由から外国人技能実習生については厚生年金への加入について免除措置をとる必要があるのではないかと考えられるが如何か。
右質問する。
おお~がんばれ山田議員!
なんでもかんでも年金に吸い上げようなんて出来ると思うなよ!
質問への答弁
そしてこちらが、先ほど引用した山田議員の質問に対する答弁書です。
衆議院議員山田敏雅君提出外国人技能実習生にかかる厚生年金保険制度に関する質問に対する答弁書
厚生年金保険制度は、被用者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、被用者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものであり、事業主との間に一定の使用関係が認められれば、被用者の日本国籍の有無にかかわらず、強制的に適用することとしている。
お尋ねの外国人技能実習生については、厚生年金保険の適用事業所に使用される者となった場合は厚生年金保険の被保険者となり、被保険者期間中に障害又は死亡という保険事故が発生したときは保険給付が行われ、保険事故が発生せず、帰国したときは脱退一時金が支給されることとなっていることから、現行の取扱いは適切なものであると考えている。
うん。軽くいなされたようです(^_^;)
この答弁書の内容を簡単に書くと
- 日本国民だろうが外国籍だろうが、日本で働いたら年金は強制適用です
- 加入中に亡くなったり障害が残る保険事故がおきたら保険給付します
- 特になにもなくても、本人には一時金があるから良いじゃん
言葉は悪いかも知れませんが、こういうことかと。
参議院でも同様の質問と答弁
ちなみに、このあと参議院でも第165回国会にて、外国人技能実習生の厚生年金保険制度に対する質問が再び出ています。
こちらは6つの観点からの質問で長文となるので全文は引用はしません(下にリンクは貼っておきます)が、「外国人技能実習生が厚生年金保険制度に加入するのはおかしいのではないか」というスタンスで質問されています。
こちらの答弁も衆議院の時と同様に、改善するということはなかったようですね。
第165回国会(臨時会) 参議院
外国人技能実習生に係る厚生年金保険制度に関する質問
特に、経営者の端くれとして聞いて欲しかった、「外国人技能実習生は脱退一時金がもらえるが、労使折半の会社負担分は返ってこない点」を質問されていて拍手を送りたい気分でした。
が、その答弁は以下の内容でした。
厚生年金保険制度における脱退一時金については、滞在期間の短い外国人労働者について保険料を負担したにもかかわらず老齢給付に結びつかないという問題について対応するための特例的な措置として、障害又は死亡という保険事故にも対応していることから保険料の納付が保険給付に結びつかないというわけではないものの、当該外国人労働者本人の立場に配慮して例外的に本人の保険料負担相当分を基準とした額を支給するものであり、支給額の算定に当たり事業主の保険料負担相当分について勘案することまではしないこととしたものである。
また、脱退一時金については、保険給付として事業主ではなく被保険者に支給されるものであり、納付された保険料の返還金という性格を有するものではないことから、事業主の保険料負担相当分を事業主に返還するという考え方をとらないものである。
さらに、外国人技能実習生を含む滞在期間の短い外国人労働者にとっては、厚生年金保険の被保険者となることにより、障害又は死亡という保険事故が発生した場合には生涯にわたり障害給付又は遺族給付が支給されることになり、安心して働くことが可能となるとともに、事業主にとっても、その結果として事業の円滑な実施に寄与する面があると考えられることから、外国人技能実習生を厚生年金保険の被保険者とすることは、本人及び事業主の双方にとって意味があるものと考える。
とまぁ、あんまり芯からは納得しかねる答弁ですね。
上の答弁を僕なりに解説すると、「外国人技能実習生が期間中に死亡や障害を負うことになっても年金で国が支えるよ~。そしたら実習生も安心して働けるから、会社側のメリットもあるよね。ということで労使折半の会社負担分は返しませんけど良いよね」
といった感じでしょうか。
でもこれって、中小企業にとってはけっこうキツい負担ですよね。厚生年金保険料がないだけでも、かなり助かります。外国人技能実習生の手取り額も増えて双方ハッピーな気がするのにね。
まぁ文句ばかり言っても仕方ない。ということで、なぜ、ただでさえ労働力不足で困っている中小企業に追い打ちをかけるような不利な制度なのか、この記事を書きながら自分なりに考えてみました。
そこで思い至ったのは、「そもそもなぜこの制度が出来たのか、という成り立ちにあるんじゃないか」ということです。
そもそも外国人技能実習制度ってなに?
実は、もともと外国人技能実習制度は、労働力の穴埋めのために始まった制度ではないんです。
まずは、この法律の第一条(目的)をご覧下さい。
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、技能実習に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにするとともに、技能実習計画の認定及び監理団体の許可の制度を設けること等により、出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。次条及び第四十八条第一項において「入管法」という。)その他の出入国に関する法令及び労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)その他の労働に関する法令と相まって、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図り、もって人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力を推進することを目的とする。
引用:外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)より抜粋
つまり、技能実習制度とは、技能実習生の人材育成を通じた、開発途上国への技能・技術・知識の移転による国際強力を推進するという、国際貢献のための制度だったんですね。
確かに、東南アジア諸国出身の技能実習生はよく話に聞きますが、アメリカやヨーロッパ、また中国や韓国といった国の出身で技能実習生という話は聞いたことがありませんでした。これらの国は発展途上国ではないので、技能実習生には当たらないということなんでしょうね。
日本のODAと外国人技能実習制度
日本のODA(Official Development Assistance:政府開発援助)で、ウン百億円を投じて発展途上国のインフラ整備を行ったというニュースを聞いたことはないでしょうか。
ともすれば「外国に協力する予算があるなら国内の財政赤字をどうにかしろ!」とか「ODAって日本の大企業が結局中抜きするんでしょ」とかの批判があったりしますよね。
でも逆に「日本のODAによるインフラ整備は、ただ何かを作ってあげるだけではなくて、現地の企業や労働者に対してしっかり指導して、撤退した後も自立できるように支援している」といった賞賛の言葉も聞いたことがあります。
この記事を書きながら、外国人技能実習制度も、この後者の考え方が根本にあると気がつきました。
国際貢献なので技能実習生の育成と保護が最重要
話を元に戻して、「なぜ、3年ほどしか働かない外国人技能実習生に対して厚生年金保険制度を適用するか」です。
国際協力の推進が目的であれば、外国人技能実習生がしっかりと技術を習得し、帰国後、その分野のリーダーとして活躍し、国の発展に寄与しなければなりません。
リーダーとして活躍してもらうためにも、日本で実習している期間、受入企業は安心して技能を習得できる環境を実習生に対して提供できているか、国として実習生を保護し受入企業を管理しなければならないのではないかと思うに至りました。
その、安心を生み出す環境づくりの一環として、実習生に何かあったときに国として保障が出来る「厚生年金保険適用」が含まれているのでしょう。だから、1年だろうが3年だろうが5年だろうが、日本人と同等に保護されているということなんでしょうね。
美しい制度だと、改めて思いました。
でも人手不足は深刻です
とはいえ、お掃除屋の経営者としてこのままでいいのか!と、声を大にして言いたい!!
本当に人手不足です。
お掃除ロボットなども出てきていますが、人間に代わるまでにはまだまだ時間がかかりそうです。
そこのところ行政もホントは分かっているので、国際貢献なんて全く考えていない小さな会社が外国人技能実習制度を活用して労働力の穴埋めを行っていることに半分目をつむっているんですよね。
先ほど書いた国会での答弁も、十数年前の話です。当時と比べものにならないくらい、この制度を活用している会社、そして実習生がいることでしょう。
積立方式ではなく賦課方式を採用している日本の公的年金制度も大変でしょうが、外国人技能実習生の厚生年金保険料の見直し(ゼロじゃなくても減額でも良い)を考えていただけないかなって思います。
以上、長文失礼しました。ここまでお読みいただき、ありがとうございます。